叱っても変わらないのはなぜ?

――「勉強しなさい!」が逆効果になる心理メカニズム

 

「もう何回言ったらわかるの!」「いい加減に勉強しなさい!」


そう叱った直後、子どもがムッとした顔で部屋にこもる…。


親としては「心配だから言っているだけ」なのに、なぜか反発される。


この経験、どこの家庭にもあるのではないでしょうか。

 

実は、「叱っても変わらない」には、ちゃんとした理由があります。


それは“脳の仕組み”と“子どもの心理”にあります。

 

 

■ 命令されると脳は「抵抗モード」になる

 

脳には「自分の行動を自分で決めたい」という性質があります。

 

心理学ではこれを「自己決定理論」と呼びます。


つまり、人は“やらされる”と感じた瞬間に、やる気を失うのです。

 

「勉強しなさい」という命令は、子どもの脳にとって“強制”と受け取られます。


すると脳は、「自分の自由を奪われた」と判断し、無意識のうちに抵抗を始めます。


このとき、勉強に対するエネルギーは「やる気」ではなく「反発」に使われてしまうのです。

 

「わかってるよ!」「今やろうと思ってたのに!」という反応は、その現れです。

 

 

■ 「叱る=危険」と感じると、思考が止まる

 

もうひとつの理由は、“脳が防御反応を起こす”ことです。


叱られると、脳の「扁桃体(へんとうたい)」という部分が反応し、

 

「危険だ!」と判断して身を守るモードになります。

 

このとき、冷静に考えたり、行動を変えたりするための“前頭前野”の働きが鈍くなります。


つまり、叱られれば叱られるほど、
子どもは「次どうすればいいか」を考える余裕を失っていくのです。

 

結果、「怒られないように隠す」「言われたことだけする」などの“受け身の学び”になり、
自分から動ける子には育ちません。

 

■ 叱るより「環境を変える」ほうが早い

 

「じゃあ、何も言わないほうがいいの?」


――そんなことはありません。


大切なのは、“叱る”より“仕組みで動ける環境”をつくることです。

 

たとえば、

  • 勉強時間を「親が決める」より「一緒に相談して決める」

  • 勉強道具をすぐ手に取れるように整える

  • リビング学習など、親が見守れる環境にする

こうした“小さな工夫”で、子どもは「自分で決めた」と感じ、脳が素直に動くようになります。

 

また、「できたね」「昨日より集中してたね」と小さな変化を認めることで、
子どもは「もっとやろう」という内側からのモチベーションを高めていきます。

 

 

■ 子どもが変わるとき、それは「叱られた後」ではなく「気づいた瞬間」

 

行動が変わるきっかけは、怒られたときではありません。


「なるほど、こうすればできるんだ」と子ども自身が“納得した瞬間”です。

 

そのためには、親が焦らず、環境を整え、安心できる空気をつくることが何より大切です。

 

勉強ギライな子ほど、「やらされる」環境では動きません。


でも、「やりたくなる」環境を整えると、驚くほど素直に動き始めます。

 

 

叱るより、整える。


それが、変化への一番の近道です。